音声対話エージェントを活用した在宅高齢者の自助支援サービスの研究†背景†現在世界的に高齢化が進行しています.特に日本は深刻で,65歳以上人口の割合が21%を超える超高齢社会に突入しています. 内閣府発行の高齢社会白書によると,日本の高齢化率は,2019年には28.4%にも及んでおり,さらに増加し続けていくとされています. そのため介護に関する施設や人材の不足が問題になっています. これを受けて,政府は従来の施設介護から在宅介護への転換を図っています. しかし,家族への介護負担や老々介護・認々介護・独居などの問題を考えると,人の手による自助・互助の支援には限界があります. そこで,テクノロジによる自助・互助支援が注目されています. 従来研究†我々の研究室では,在宅高齢者・認知症患者の自助・互助を支援するシステム・サービスの研究・開発を行っています. その一つに「VA(Virtual Agent)傾聴サービス」があります. このサービスは,音声対話エージェントが高齢者の話を傾聴することで,センサでは観測できない「こころのうち」を取得することを目的としたサービスです. 高齢者が内に秘めた想いを話すことで,ストレスの解消にもつながります. 課題†現在,インターネット上には便利な情報やサービスがたくさん存在します. その中には在宅高齢者の自助支援につながるものもあります. 例えば「認知症ちえのわnet ( https://chienowa-net.com/ )」は,物忘れなどの困りごとへの対処法をまとめたサイトです. また「YouTube (https://www.youtube.com/ )」は,日々の生活を豊かにするという点で自助支援につながるサービスです. 一方,多くの高齢者はPCやスマートフォンなどのデバイスの操作に慣れていません. 令和2年度 第9回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査結果によると,日本の高齢者のうち普段からスマートフォンを使用しているのは44.5%, PCを使用しているのは31.1%とされています. さらに,その内インターネットで情報を集めたりサービスを利用するのは31.7%と言われています. そのため,高齢者がインターネット上の便利な情報やサービスを利用することが困難になっています. 目的・キーアイデア・アプローチ†本研究の目的は,デバイスの操作が不慣れな高齢者に対しても情報やWebサービスを提供することです. キーアイデアは,デバイスを直接操作することなく音声対話のみでWebサービスを実行することができれば,高齢者でも簡単に情報やサービスを利用できるということです. そこで,VA傾聴サービスに「音声対話のみでWebサービスの実行を可能にする機能」を追加します. これを2つのアプローチで実現します. A1:異なるサービスにおけるユーザ情報の一元管理 A2:音声対話を通したAPIの実行 システムアーキテクチャ†提案システムのアーキテクチャを以下に示します A1について,You-IDサービスを作成しました. このサービスに各サービスのユーザ情報を登録して一元管理することで,傾聴サービスからシームレスに任意のサービスの情報を取得することができるようにしました. A2について,以下の4 Stepによって,音声のみでAPIを実行し,ユーザにサービスや情報を提供できるようにしました. Step1: キーワードによるサービス実行シナリオの開始 Step2: 対話を通したパラメータの取得 Step3: APIの実行 Step4: 実行結果の整形・表示 評価実験†在宅高齢者に対して,提案システムの評価実験を行いました. 実験期間は1週間で,提案システムを被験者宅に置き,期間内に連携したサービスを最低一回は実行してもらいました. 今回連携したサービスは,「動画再生サービス,カレンダーサービス,検索サービス,過去の発言内容を振り返るサービス」の4つです. 実験終了後,アンケートに回答して頂きました. その結果,提案システムにより音声のみで簡単にサービスを利用することができたという評価を得ることができました. |