Research/SmartHealth

環境センシングを利用した在宅認知症者のための異常検知・対応サービスの検討

背景

現在,日本は超高齢化社会を迎えており,総人口の約30.3%が65歳以上の高齢者となると言われています.

それに伴って認知症者の数も増加し,2025年には700万人前後になると予想されています.

これに対し政府は,施設介護に対する取り組みより,在宅介護の取り組み支援を始めています.

したがって,今後の認知症介護の形態としては家族介護が主体になり,在宅での認知症介護の負担を軽減する支援技術やシステム(アシスティブ・テクノロジ)が求められています.

課題

認知症者の在宅介護を支援する様々なアプローチの中で,本研究では特に,在宅認知症者のための異常検知・対応に焦点を当てています.

ここでいう異常とは,「宅内において,認知症者またはその関係者の健全・安全な生活を妨げる要因になりうるあらゆる状態・状況」と定義します.

在宅介護における異常検知を行うシステムとして,見守りシステムがよく知られています.

見守りシステムとは,センサやウェアラブル機器を用いて認知症者の状況をモニタリングし,異常が検知された場合に介護者にその発生を通知するシステムで,徘徊検知システムや高齢者ケア包括支援システムなど多くのシステムが実際に開発されています.

しかしながら既存の見守りシステムは,予め決められた異常しか検知できず,症状が異なる認知症者に幅広く適用できません.

さらに,異常検知後の対応が介護者やオペレータ等の人間への通知に限られているという課題があります.

目的とアプローチ

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これらの課題を解決するため,我々の研究グループでは認知症者の自宅における複数の環境値(温度,湿度,照度,気圧,音量,モーション,振動)をIoTを用いてセンシングし(環境センシングと呼ぶ),認知症者と介護者一人ひとりに寄り添った在宅介護支援を実現することを目指しています.

本研究では特に,この環境センシングを活用した異常検知に焦点を当て,個人毎に異なる異常の定義と,その検知・対応をユーザが柔軟にカスタマイズできるサービスを提案します.

具体的には,コンテキストアウェアサービスの考え方を取り入れ,宅内で観測される異常をコンテキストと捉えます('’異常コンテキスト'’と呼ぶ).

異常コンテキストは,環境センシングで取得される現在または過去の環境値を用いて定義されます.

この異常コンテキストを,ユーザ(介護者またはケア提供者)が認知症者の症状に合わせて自由に定義できるようにすることで,人それぞれ全く異なる異常を柔軟に扱えるようになります.

さらに,異常発生時の対応については,従来の人間への通知に加えて,3種類の対応('’語り掛け,興味・関心を引く,アクティビティに誘う'’)を用意します.

語り掛けとは,認知症者の名前を呼び,短くわかりやすく語り掛ける対応です.

興味・関心を引く対応とは,認知症者の気持ちに沿いながら上手に話題をそらす対応です.

アクティビティに誘う対応とは,認知症者の気持ちに沿いながら活動の誘導を行う対応です.

これらの対応をヴァーチャル・エージェント技術を用いることで,システムが人間に代わって実行するようにします.

提案サービスでは,定義した各異常コンテキストに対して,上記の対応を自由にひもづけることで,通知以外の異常対応を実現できます.

システムは環境センシングを通して異常コンテキストの成立を自動検知し,登録された対応を自動的に実行します.

本研究では,提案サービスのプロトタイプをRESTful Webサービスとして実装しました.

これにより,異常コンテキストの定義や評価をWeb経由で容易に行えます.

また,異常コンテキストの定義や対応の登録を行うためのGUIも作成しました.

異常コンテキストの検知と異常対応の実行を行うサービスとしては,我々の先行研究で開発しているコンテキストアウェアサービス基盤RuCASを利用しました.

最後に,提案サービスの実用性を確認するために,実装したプロトタイプサービスを利用して,「突然大声を上げる」という異常に対して「語り掛け」で対応する,異常検知・対応のケーススタディを行いました.

提案サービスによって,認知症者や介護者の一人ひとりの状況に応じた柔軟な異常検知・異常対応が可能となります.

これによって,介護者の負担が少なくなり,継続的で質の高い在宅認知症介護の実現に貢献できtると考えています.

発表文献

玉水一柔, 徳永清輝, 堀内大祥, まつ本真佑, 佐伯幸郎, 中村匡秀, 安田清, ``環境センシングに基づく在宅認知症者のための異常検知・対応サービスの検討,'' 電子情報通信学会技術研究報告, vol.115, no.437,ASN2015-93, pp.81-86, January 2016.


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Last-modified: 2024-02-14 (水) 11:29:47