Research/SmartHealth

在宅高齢者を支援する個人適応型スピーカーサービスの提案

背景

現在我が国は超高齢社会に直面しています.内閣府発行の高齢社会白書によると,日本の高齢化率は年々上昇を続け,2019年には28.4%にも及んでいます.何らかの病気や怪我などで,日常生活への影響を訴える高齢者も増えており,中でも認知症を持つ高齢者の増加は著しいのが現状です.

高齢社会白書では,65歳以上の認知症を有する高齢者数と有病率の将来推計を行っています.これによると2025年には約700万人が何等かの病気を抱えていることになり,五人に一人になると見込まれています.認知症予備軍とされる軽度認知障害を含めると1300万人を超えて,高齢者の三人に一人が認知機能障害に罹るとされています.これにより,介護人材や介護施設といったリソースの不足が一層深刻化する中で,政府はリソースの増加ではなく在宅介護への転換を促すことで対応しようとしています.

課題

加齢による認知機能の低下は高齢者全般に見られ,認知機能の低下によって予定や持ち物を忘れたりやるべきことをやり忘れるといった日常生活の支障が起きてしまいます.これらが原因となって生活の質(Quality of Life)が低下します.

このような問題に対して,現状の在宅介護では生活を共にする家族介護者がその時々に口頭で情報を提示したり注意を促したりして,当事者の生活を支援しています.しかしながら,認知機能の低下が進むと,何度も繰り返して同じ注意を行わなければならず介護者の新進に大きなストレスがかかってしまいます.同時に注意される当事者も落ち込み,いさかいや不和が起きてしまっては元も子もありません.

これまでにも高齢者の在宅生活を支援するための様々なシステムやサービスが研究開発されています.代表的なものとしてICレコーダーを活用した物忘れ支援の手法が考案されています.これは介護者がICレコーダーに注意喚起したい情報をあらかじめ音声で録音しておき,レコーダーのタイマー機能で再生することで定期的な声掛けやリマインドを実現しています.

しかしこの手法には課題が存在します.録音したものを再生するだけなので,毎回同じ情報を繰り返して提示することしかできず,場所や時間に応じた多様な情報提示を行うことはできません.このような支援技術は極めて有効に働く場面が存在する一方で,多様な在宅介護の状況や高齢者の生活スタイルに適応した支援の実施に限界があります.

目的・アプローチ

本研究の目的は,認知機能に不安がある高齢者や認知症当事者を対象として,本人の在宅生活のスタイルに適応する形で,必要な情報を提示する支援技術を実現することです.

この目的を達成するために,本論文では宅内の様々な場所と時間に応じて,適切な情報を音声で提示するシステム「ALPS:Assisted Living by Personalized Speaker」を開発しました.

ALPSは人感センサ付きのIoTスピーカーを宅内の要所に設置し,クラウドのECAルールと連携することで,場所と時間に応じた情報を音声で提供します.ALPSは個人に適応した支援を以下の三つのアプローチで実現します.

A1:IoTスピーカーの設置

A2:ECAルールの登録

A3:ルール評価と音声提示

それぞれについて,次項でアーキテクチャの図とともに説明します.

システムアーキテクチャ

ALPSは以下の画像のようなアーキテクチャで構成されています.

ALPS_arch.png

A1について,対象者の抱える困りごとに基づいて,家族介護者が情報を提供すべき場所を選定し,それぞれの場所にIoTスピーカーを設置します.各IoTスピーカーには人感センサが備わっており,人の近接を検知するとイベントを発行します.IoTスピーカーは以下の写真のようなものです.

alps_front.jpg

A2について,家族介護者が対象者に対して「どこで」「いつ」「どのような」情報を提示すべきかを考え,ECAルールの形式で設定します.ECAルールとは,場所と時間に応じた情報提示をルールベースにまとめたものです.

E(イベント):IoTスピーカーの設置場所での人感検知イベント

C(コンディション):時間帯と曜日による情報提示条件

A(アクション):スピーカーから提示される情報

を表しています.

ケーススタディ

今回は二人の高齢者,ミヨコさんとキヨシさんについて考えます.

ミヨコさんは加齢による物忘れがあり,「携行品を忘れる」という困りごとを持っています. この時に設定されるルール例としては,「(E)玄関で人感が検知される」のがよく出かける「(C)月曜,水曜,土曜の10:00~11:00」であった場合,「(A)家の鍵は忘れていませんか?」と情報を提示するというルールの設定が考えられます.

キヨシさんは軽度認知症であり,「トイレを流すことを忘れる」という困りごとを持っています. この時に設定されるルール例としては,「(E)トイレで人感が検知される」のが「(C)一日中いつでも」であった場合,「(A)トイレを流し忘れていませんか?」と情報を提示するというルールの設定が考えられます.

これらの設定を実際に行い,動作実験を行ったところ期待通りの動作が行われることが確認できました.


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Last-modified: 2024-02-14 (水) 11:29:47