センサ技術やM2M 技術の発展にともない,実世界における様々な情報を取得・収集可能になってきている.コンテキストとは,センサやシステムから取得した情報に基づいて定義された「状況情報」を指す.例えば,温度センサから「現在の気温が10 ℃未満」という情報が得られた場合,これに対して「寒い」という状況をひもづけることで,「寒い:気温< 10」というコンテキストを定義できる.同様に,音量センサを用いた「騒がしい」や,電力会社が提供する電力使用率を用いた「電力が逼迫している」といったコンテキストも定義できる.

こうしたコンテキストを利用することで,その場その時の状況に合わせたアクションを律的に実行するコンテキストアウェアサービスを実現できる.例えば「寒い」というコンテキストに「暖房をつける」というアクションをひもづければ,「寒い時に自動的に暖房をつける」というコンテキストアウェアサービスが実現できる.コンテキストアウェアサービスはユビキタスコンピューティングの分野で盛んに研究されている.我々の研究グループでは,ホームネットワークシステム(HNS) [1] 内のコンテキストアウェアサービスを作成・管理・運用するための様々な枠組み(例えば,センササービスフレームワークSSF [2], センササービスバインダSSB[3], RuCAS プラットフォーム[4]) を提案・開発している. 従来多くのコンテキストアウェアサービスでは,センサやシステムの現在の値を利用してコンテキストを定義してきた.そのため表現可能なコンテキストが現在の状況に限定される.例えば上記の「寒い」というコンテキストは現在の気温のみで表現できた.しかし「昨日より5 ℃以上寒い」というコンテキストは,過去の情報が必要となるため表現できない.

そこで我々の最新の研究[5] では,ホームネットワークシステム(HNS) に蓄積された住宅ログを活用することで,過去の状況も考慮したより高度なコンテキスト(ログコンテキストと呼ぶ) を表現する手法を提案している.住宅ログとは,HNS 内の環境センサの計測値や機器の操作,消費電力等の住宅の情報を周期的に記録し,蓄積した履歴情報(ログ) である.例えば「昨日より5 ℃以上寒い」というログコンテキストは,住宅ログに対して「昨日同時刻の気温センサの値」を問い合わせ,現在の気温と比較することで,次のように表現できる:「昨日よりずっと寒い:現在の気温 昨日の気温􀀀5 ℃」.なお,この先行研究[5] では,住宅ログを用いたログコンテキストの定義方法と利用体系について提案を行っているが,具体的なシステムの実装にはいたっていない.

本研究の目的は,先行研究[5] を実際のシステムとして実装し,その実用性を確認することである.本研究では,我々が以前より開発・運用している実際のHNS 環境(CS27-HNS) [6] を使用する.また,CS27-HNS で蓄積している住宅ログの中から,環境センサの値とそのログに対象を絞り,それらを利用した環境ログコンテキストを取得するシステムを設計・実装する.

本研究では,住宅ログを利用したログコンテキストをできるだけ容易に作成・管理できるように,システムを4 つの層(レイヤ) で構成している.

1. アプリケーション・レイヤ:ログコンテキストを利用してコンテキストアウェアサービスを実行・管理する層.

2. ログコンテキスト・レイヤ:ログコンテキストを定義し,定義式に基づいてコンテキストの値を評価・取得する層.

3. ログクエリ・レイヤ:ログコンテキストを構成するための住宅ログへの問い合わせ(ログクエリ) を管理する層.

4. DB 接続レイヤ:住宅ログを蓄積するDB に接続し,ログクエリに基づいて過去の状況情報を取得する層.

実装したシステムを利用して,CS27-HNS において下記の2つのログコンテキストを定義し,取得できることを確認した.

「昨日より5 ℃以上寒い」 「ここ数年で最も寒い」

実装の結果,提案手法はCS27-HNS の環境コンテキストの表現の幅を大きく広げられることがわかった.また,実装したログコンテキストを用いることで,「より気の利いた」コンテキストアウェアサービスの実現が期待できる.


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